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浅田信一最新作『DREAMS』に寄せて
浅田信一に会うたびに「新しいアルバムはまだなの?」としつこく尋ねていた。ミュージシャンにはミュージシャンのペースがあることは重々承知だ。ぼくは普段エディターをやっているのだけれど、「抱えてる作品を早く本にしろ」といわれても簡単にはできるものではない。それはわかっているんだけど、彼の顔を見るたびにどうしてもそういわずにいられなかった。なぜなら前作『Blue Moon Blue』が素晴らしい作品だったからだ。楽曲のクオリティ、ボーカル・ワーク、歌詞に至るまで、ソロ・キャリアのなかで一番充実していた。
あれは1年半ほど前だっただろうか、浅田信一が「50歳になるから今までのキャリアを集大成したい」というので、「いやいや、ぼくらが待ち望んでいるのは新作だから」といったことがある。過去のソロ曲もスマイルも素晴らしい。だけど今の浅田信一にはそれらを凌駕できる楽曲を生む力がある。節目だか何だか知らないけれど、今は過去を振り返っている場合じゃない。その力を使わないでどうすんの? きっと『Blue Moon Blue』を聴いた多くの人がそう思っていたはずだ。
そして前作から3年半、浅田信一のニューアルバム『DREAMS』が届いた。「期待通りの作品」という言い方は、この作品の褒め言葉にはならない。今作はぼくらの予想を裏切り、前作の延長線上という言葉では語ることができない、今までにない新しい試みのもとに制作された意欲作になったからだ。『DREAMS』は作詞・作曲・編曲・演奏、レコーディングまでを、浅田信一がほぼひとりで行った。彼が書いた全曲解説にもあるように、作曲にもレコーディングにも、バンドではできないアプローチを導入。たったひとりで楽曲と格闘しながら、この作品をつくりあげていった。歌のテーマもパーソナルなものが多く、SNS上でフォロワーに対し、未完成の音源の断片を公開することで、制作過程を共有してきたことからも、「個」を強調した作品だということがわかる。いうなれば「半径2メートルで制作されたアルバム」なのだ。
だからといって、このアルバムが内省的な作品なのかというと、そうではない。「閉じた作品」でもない。メロディもサウンドも外に向かっている。ついでにジャケット・アートも妙に楽しげで開放感がある。むしろ『Blue Moon Blue』の方が内省的な作品に聴こえるくらいに、今作はポップだ。それが『DREAMS』の最大の特徴だ。浅田信一はスタジオでひとりこもって録った楽曲たちを、1曲残らずポップに着地させたのだ。そこにメロディー・メーカーとしての才能とプロデューサーとしての意地を感じてしまう。『DREAMS』は「私小説」ではあるけれど、決して「日記」ではないのだ。
定期的に行っている三軒茶屋でのアコースティック・ライブも、たまにやるバンド編成のライブも、毎回、クオリティの高いステージを繰り広げている。そのなかから生まれた『DREAMS』というアルバム。3年半も待たされたのは納得がいかないけれど、やはり浅田信一には何か特別な音楽の力が宿っているとしか思えない。おそらく8月25日に渋谷クアトロで行われる50歳のバースデイ・ライブも、過去の集大成というよりも今の浅田信一の創造力のすごさを示すものになるだろう。浅田信一のロックがロールするのは、むしろこれからだ。
森内淳/DONUT
メッセージ from 古市コータロー(THE COLLECTORS)
色彩豊かなアルバムだと思う。
景色とかではなく目の前に色が広がる。
なぜだろう。その色の選択は常にこちらの自由だ。
信ちゃんがおそらく、それはとても自然にだと思うが生きている中で全ての事を肯定できたのではないだろうか。
とても難しい事だとは思うが彼はきっとできたのだと思う。だからこそ今この年齢になったからこその歌が歌えているのだと思う。
DREAMSというタイトルがつけられたアルバム。
このタイトルを信ちゃんが今つけられた事を友人としてとても嬉しく思う。
古市コータロー(THE COLLECTORS)
「DREAMS」制作ノート 文 / 浅田信一
1.Dreams
この曲以外の曲が出揃った時点で、アルバムのオープニングは潔く弾き語りが良いかなと思い、それならと一番最後に作った曲。「Dreams」は曲を書きながら出てきたワードなのだけれど、なんとなくこのアルバムを象徴している気がしてアルバムタイトルに昇格させた。歌詞中の「お土産」という単語を「手土産」にするかどうかで最後まで迷った。一度迷ったら延々と答えが出せないのはセルフプロデュースの辛いところです。
アコギはダブルトラックにせず一本のみの一発録り。と言ってもよくある路上ライブ風にはしたくなく、エンジニアと相談して20畳くらいの広さの部屋にリボンマイクをステレオで2本立て、さらにオンマイクも2本、計4本のマイクで収録した。やわらかなアンビエンスとオンマイクのスピード感がうまくミックスされてイメージ通りのサウンドになった。
2. タイムマシンに乗って
もう一度会いたいけれど、二度と会えない存在。人や動物との生き別れや死に別れ。誰にでもそんな思い出が一つや二つあると思う。思い出の中で輝いてるものに、タイムマシンに乗って会いに行く。そういう歌が書きたかった。
このアルバムは数曲のゲストを除いて演奏、歌唱、録音を自分一人でこなすことにもこだわった。これまでのサウンドプロデュースワークで培ってきた自分のスキルを試してみたかったのだ。純度100%の自分の音。僕にとっては新しい挑戦。
3. 世界の果てから
Don‘t trust over thirtyなんて言葉を真に受けていた若い頃には、五十代なんてきっと「この世の果て」、「世界の果て」だと思っていた。ところがどうだろう、いざ自分がその立場になってみたら、根本的には昔と何も変わっていない自分に気付く。むしろ今の方が心が軽やかなくらいだ。若い頃の自分に負けてられない。まだまだ人生の旅は続くのだ。今年50歳になる男のたわ言です。
4. 君がくれた宝物
トトが死んだ。僕にとっては息子も同然の大切な大切な猫である。ある日突然病いにかかり、僕を残して旅立ってしまった。
多分この先、彼のような存在には巡り会えないだろう。7年間という短い間だったけれど、沢山の優しい思い出をありがとう。
いつかあの世で再び会える日まで。ずっと愛しているよ。
5. ベガ
世界の天文台が集まるハワイ島マウナケア山。その山頂から見上げた天の川と、そのほとりで燦然と輝くベガ(織姫)とアルタイル(彦星)の美しさが忘れられない。煌めく星々を眺めながら、空の向こうの日本に暮らす人々のことや、よその国のくだらない戦争のことや、幼き日の思い出や、とりとめもなくいろいろなことを考えていた。帰国してすぐ、その時のイメージでこの曲を書いた。
同郷のシンガーソングライター岡野宏典くんのバイオリンが雰囲気を高めてくれている。
6. セピア
ある日、三軒茶屋のライブハウスで定例ライブをする際に、曲だけ先に完成していたのだけれど、歌詞が間に合わず苦し紛れに「ラララ」で歌った。それにも関わらず意外と好評を得た。というか、あたたかい拍手歓声をいただいたので、この曲はライブの時に感じる気持ちを歌詞にしようと心に決めた。
僕はへそ曲がりなのか、曲調が楽しげだと逆に悲しい歌詞を付けたくなる。子供の頃、お祭りが楽しみで仕方なかったのに、待ちに待ったその日がやってくると、終わってしまう寂しさが押し寄せてきてブルーになった。その時の気持ちとライブの時の気持ちはどこか似ている。
サウンドはシュガーベイブ風シティポップを目指しました。
7. 君を傷つけてしまった
ひと昔前のデジタルのチープ感が欲しかったのでRolandの中途半端に古い音源モジュールを引っ張り出してドラムトラックとSEを打ち込んだ。
歌詞中の「ウイスキーの酔いのせい」という部分を「せい」と発音するか「せえ」と発音するかで随分迷った。結局自分では決められず、SNSを通じてフォロワーアンケートを取ったのだけれど、結果は呆気なくも100%が「せい」推し。「お土産」「手土産」問題もそうだけど、ちょっとしたニュアンスで曲の表情がガラッと変わる。うーん、日本語は奥深いですね。
今作は制作過程をSNSフォロワーと共有しながら進められたのも良かった。みんなからの「いいね」やコメントにどれだけ励まされたことか。つまりこのアルバムの第2のプロデューサーはフォロワーのみんなです。いや、マジで。
8. あいのうた –ALBUM MIX-
昨年リリースしたEPからの選曲。
普通サビはトニックかサブドミナントコードから入るのが定番だけど、ドミナントコードからサビへと展開する曲が書きたくて作った。実はこの手法は難易度が高いのだけれど、とてもうまくできたので作曲に対する達成感が高い。
歌詞は毎年春に桜を見て、歳を重ねる程に誰もが思うであろうあの感情を表現した。
そう言えば、ドミナントサビの手法は「Cherryblossoms」という曲を書いた時に使って以来。僕の中では桜はドミナントコードのイメージなのかな。
9. 走れメロウズ
オープンGのアコースティックギターで書いた曲。ジョニ・ミッチェルやアレックス・チルトンのオープンチューニングのアコギの響きが好きだ。でも、ただのアコギ曲にするのもありきたりなので、Linn DrumのビートとMoogのシンセベースでハイブリッドサウンドを目指した。
間奏のソロはMoogを出鱈目に弾いたら意外に悪くなかったのでそのまま残した。
太宰治には二十歳前後にかぶれました。
10. マジックアワー
夕暮れ時の刻一刻と表情が変わる空。画家ゴッホはそのマジックアワーの空の色を描くために、自分だけの色を追い求めたそうです。東京で見る夕焼けは南フランスのそれほどは美しくないかもしれないけれど、それでも僕は自分が暮らす街の空に愛着があります。
メロディは子供の頃に見たアニメのエンディングテーマのような、懐かしいものにしたいと思って書いた。たまにはあの頃のように、夕暮れの空を見上げてみよう。マジックアワーの光を眺めながら晩飯のことでも考えよう。
最後まで読んでくれてありがとうございました。